最高裁判所第一小法廷 平成2年(行ツ)21号 判決 1991年3月28日
上告人
シャープ株式会社
右代表者代表取締役
辻晴雄
右訴訟代理人弁理士
深見久郎
森田俊雄
同訴訟復代理人弁護士
村林隆一
被上告人
特許庁長官
植松敏
右指定代理人
加藤和夫
外六名
主文
原判決を破棄する。
上告人の本件訴えを却下する。
訴訟の総費用は上告人の負担とする。
理由
職権をもって調査するに、上告人は、本件特許出願における拒絶査定を不服として審判を請求したが、審判請求を不成立とする本件審決があったので、本訴で本件審決の取消しを求めているところ、記録によれば、上告人は、平成元年一二月二二日、本件特許出願を取り下げたことが認められる。してみると、上告人は、本件審決の取消しを求めるにつき法律上の利益を失うに至ったというべきであるから、本件訴えは不適法として却下すべきであり、これを適法として本案につき判断した原判決は、破棄されるべきである。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官橋元四郎平 裁判官大内恒夫 裁判官四ッ谷巖 裁判官大堀誠一 裁判官味村治)
上告復代理人村林隆一の上告理由
原判決には、実体審理をすべきでないのに、之をした違法がある。
一 本件は特許出願(昭和五拾四年特許願第九弐四七七号)の拒絶査定に対する審決の取消請求についての上告事件である。
二 ところで、右の対象である本件特許出願は平成元年拾弐月弐拾弐日に取り下げられた(添付第壱号)。右の取り下げによって本件特許出願は初めからなかったものとなり、従って、前記審決は、右出願の取り下げにより、その効力を失った。
三 そうすると、原判決は、既に効力を失った審決に対する審決取消訴訟における判決となり、法律上の利益を欠くものとなる。
四 然るに、原判決は、その審決について違法事由があるかどうか、その実体について判決しているものであり、要するに違法な判決である。
五 依って、原判決は法律上の利益を欠くにも拘わらず、実体判決をしたものであり、之を違法として破棄せられるべきである。